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【記録と数字で楽しむMGC】高温・多湿でのマラソンは?

2019.09.11
9月15日(日)、男子8時50分、女子9時10分スタートで、2020東京五輪マラソンの代表を決める「MGC(Marathon Grand Championship)」が行われる。

ここでは、記録や数字を中心に、知っておくとMGCをより一層楽しく観戦できそうなデータを紹介する。


【高温・多湿でのマラソンは?】

前述の走力バランス分析(「男子の走力バランス分析」「女子の走力バランス分析」)は、各種目の自己ベストを対象としたので、マラソンの記録は、42.195㎞のレースにとって最も望ましいとされる気温10℃ちょっとあたりの秋・冬・春先のレースでマークされたものがほとんど。しかし、このところの五輪・世界選手権は暑い時期に行われる。今回の「MGC」も9月15日ということで、当日が気温30℃を超える「真夏日」や25℃を超える「夏日」になる可能性が高い。

「表2」は、1999年から2018年までの過去20年間の東京の午前9時・10時・11時・12時の気象状況を気象庁のHPからまとめたものだ。


表2:9月15日の1999年から2018年の東京の気象状況(気象庁HPのデータによる)
年・時刻天候気温(℃)湿度(%)風向風速(m/s)
<1999年>     
9:0030.166南南西8.3
10:00 29.767南西8.8
11:00 30.167南南西9.2
12:0029.866南西9
<2000年>     
9:0027.378東北東2.5
10:00 27.877東北東1.8
11:00 27.8791.1
12:002974東北東1.7
<2001年>     
9:0027.473南南東2.7
10:00 29.269南南東2.3
11:00 28.963南南東2.4
12:0028.861南南東1.8
<2002年>     
9:0019.1753.1
10:00 19.6743.4
11:00 19.6743.8
12:0019.6743
<2003年>     
9:002850北北東3.9
10:00 29.1502.2
11:00 30.741北東1.9
12:0030.742北北東2.9
<2004年>     
9:0023.745東北東6.3
10:00 24.640東北東7.1
11:00 25.337東北東6.1
12:00快晴25.439東北東5.6
<2005年>     
9:0024.860東北東6.4
10:00 24.461東北東7.1
11:00 24.9585.6
12:0025.854東北東7.2
<2006年>     
9:0021.461北北東5.1
10:00 21.9626
11:00 23.458北北東2.9
12:0023.855北東4.1
<2007年>     
9:0028.667南南西4.3
10:00 29.4652.7
11:00 29.663南西3.6
12:0029.465南西3.9
<2008年>     
9:0024.175北東1.8
10:00 25.171北北東2
11:00 25.168北北東1
12:0026.4641.9
<2009年>     
9:0021.567北北東1.7
10:00 2270北東1.3
11:00 21.967北北西3.1
12:0022.267北北西2.6
<2010年>     
9:0021.869北北西2.5
10:00 22.7632.5
11:00 23.6612.6
12:0024.958北北東3.8
<2011年>     
9:0028.665西南西2.1
10:00 2963南東3.3
11:00 30.153南東4.4
12:00快晴31.549南東4.1
<2012年>     
9:0029.765東北東1.1
10:00 2961南南東4.3
11:00 30.257南南東2.7
12:0030.257南南東3.7
<2013年>     
9:0023.894西南西4.8
10:00 24.194西北西2.4
11:00 24.193北北西0.8
12:0024.293西北西4.2
<2014年>     
9:0024.466北北西1.4
10:00 24.260北東1.4
11:00 24.656東南東2.6
12:0025.253南東2.3
<2015年>     
9:0022.663北東2.6
10:00 23.961北北東1.9
11:00 23.959北東2.6
12:002651北東3.4
<2016年>     
9:0023.397北東1.5
10:00 2594東北東1.3
11:00 25.186東北東1.7
12:002590東北東1.4
<2017年>     
9:0024.846北北西2.9
10:00 25.643北西5.3
11:00 26.538北北西4.3
12:00薄曇26.939北北西3.9
<2018年>     
9:0020.5100北西2.5
10:00 20.9100北北西1.7
11:00 21.1100北北西2
12:0021.31002.3


これによると30℃を超えたのは20年のうち4回(20%の確率)。25℃を超えたのは14回(70%の確率。男子のトップがフィニッシュする可能性の高い11時までに限ると11回で55%の確率)。25℃以上かつ湿度60%以上は8回(40%の確率)。20℃以下だったのは、2002年の1回のみ。

本当は「暑さ指数(WBGT=湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature)」も示せればよかったのだが、残念ながら、データを見つけられなかった。なお、WBGTの単位は気温と同じ摂氏度(℃)で表示されるが、その値は気温とは異なり、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目したもので、人体の熱収支に与える影響の大きい 「湿度」「日射・輻射など周辺の熱環境」「気温」の3つを取り入れた指標である。

日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2019)によると、高温化での運動に関する指針は、

気温(参考)WBGT熱中症予防運動指針
35℃以上31℃以上運動は原則中止
31~35℃28~31℃厳重警戒(激しい運動は中止)
28~31℃25~28℃警戒(積極的に休憩)
24~28℃21~25℃注意(積極的に水分補給)
24℃未満21℃未満ほぼ安全(適宜水分補給)


とされている。

いずれにしても、過去20年間のデータからしても9月15日の気温が25℃を超える可能性は高く、選手たちは、上述の運動指針の「注意」「警戒」「厳重警戒」という条件のもとで走ることになるかもしれない。8月初旬の東京五輪本番は、MGCの比ではないより過酷な条件になることが予想される。

なお、1960年代から70年代にかけての少々古いデータだが、故・高橋進氏の研究によって、気温がマラソンの記録に及ぼす影響が示されている(「マラソン(講談社。1981年)」。
「表3」がそれだ。「推定される記録」は、筆者(野口)が、今回のMGC出場者の中で自己ベストが最もいい選手の男子2時間05分50秒、女子2時間22分23秒を基準として、高橋氏の示した阻害率から計算した記録の範囲である。



表3:気温と記録の阻害される率
 暑さに 推定される記録 
気温強い選手弱い選手2.05.50.基準2.22.23.基準
14℃0.00%0.20%2.05.50.~2.06.06.2.22.23.~2.22.41.
15℃0.00%0.50%2.05.50.~2.06.28.2.22.23.~2.23.06.
16℃0.00%1.00%2.05.50.~2.07.06.2.22.23.~2.23.49.
17℃0.00%2.00%2.05.50.~2.08.21.2.22.23.~2.25.14.
18℃0.00%3.00%2.05.50.~2.09.37.2.22.23.~2.26.40.
19℃0.30%3.50%2.06.13.~2.10.15.2.22.49.~2.27.23.
20℃0.50%4.00%2.06.28.~2.10.52.2.23.06.~2.28.05.
21℃1.00%4.50%2.07.06.~2.11.30.2.23.49.~2.28.48.
22℃1.00%5.00%2.07.06.~2.12.08.2.23.49.~2.29.31.
23℃1.50%6.00%2.07.44.~2.13.23.2.24.32.~2.30.56.
24℃2.00%6.50%2.08.21.~2.14.01.2.25.14.~2.31.39.
25℃2.50%7.00%2.08.59.~2.14.39.2.25.57.~2.32.22.
26℃3.00%7.50%2.09.37.~2.15.17.2.26.40.~2.33.04.
27℃3.50%8.00%2.10.15.~2.15.54.2.27.23.~2.33.47.
28℃4.00%9.00%2.10.52.~2.17.10.2.28.05.~2.35.12.
29℃5.00%10.00%2.12.08.~2.18.25.2.29.31.~2.36.38.
30℃6.00%11.00%2.13.23.~2.19.41.2.29.31.~2.38.03.
31℃7.00%12.00%2.14.39.~2.20.56.2.32.22.~2.39.29.
32℃8.00%13.00%2.15.54.~2.22.12.2.33.47.~2.40.54.
33℃9.00%14.00%2.17.10.~2.23.27.2.35.12.~2.42.20.
34℃10.00%15.00%2.18.25.~2.24.43.2.36.38.~2.43.45.
35℃11.00%16.00%2.19.41.~2.25.58.2.38.03.~2.45.10.


以上の通りで、レース前の数日間や1週間くらい前からの気温や湿度の変化にもよるが、暑さに弱い選手は、15℃を超えるあたりから絶好のコンディション(10℃くらい)と比べ記録への影響が出始め、20℃を超えると暑さに強い選手でも影響が出てくるようだ。

MGCは男子が8時50分、女子が9時10分のスタート。当日の気象状況にもよるが、ペースメーカーがいなくて「勝負優先」のレースでもあるため、前半はスローペースの展開も予想される。気温が25℃を超えるようであれば、男子のトップのフィニッシュは11時00分前後(2時間10分前後)かそれ以降、女子は11時40分近く(2時間30分を少し切る程度)になる可能性もありそうだ。

いずれにしても、当日が20℃以下とかでない限り、耐暑能力に優れた「暑さに強い選手」が有利になることは間違いない。


以上、少々難しい統計学のことなども紹介したが、「MGC観戦」の一助になれば幸いである。



野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)


▶マラソングランドチャンピオンシップ

兼 東京2020 オリンピック日本代表選考競技会
兼 第103 回日本陸上競技選手権大会

公式サイト:http://www.mgc42195.jp/

▶8 時50 分 男子マラソンスタート
▶9 時10 分 女子マラソンスタート

男子:TBS テレビ系列全国ネット、TBS ラジオ
女子:NHK 総合、NHK ラジオ
コース:明治神宮外苑発着(日本陸上競技連盟公認コース)
明治神宮外苑いちょう並木~四ツ谷~水道橋~神保町~神田~日本橋~浅草雷門~銀座~新橋~芝公園~日本橋~神保町~二重橋前~明治神宮外苑いちょう並木