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【強化委員会】五輪マラソン競歩開催地変更に関する会見報告

2019.11.08

日本陸連強化委員会は11月5日夕刻、2020年東京オリンピック男女マラソン・競歩全5種目の開催地を東京から札幌市に変更することが11月1日に正式に決定したことを受けて、東京都内において記者会見を開きました。

会見には、麻場一徳強化委員長のほか、マラソン強化戦略プロジェクトの瀬古利彦リーダー、河野匡長距離・マラソンディレクターが登壇したほか、女子マラソンの山下佐知子オリンピック強化コーチ、男女競歩の今村文男オリンピック強化コーチ、日本陸連事務局の風間明局長が陪席。まず、強化委員会の5氏が、それぞれの思いを述べたのちに、記者との質疑応答のなかで、これまでの経緯の詳細を説明するとともに、今後に向けての方向性を示しました。

以下、その要旨をご報告します。

 

 

【会見内容(要旨)】


◎各氏コメント
麻場一徳(日本陸連強化委員会 強化委員長)

本日はお忙しいところ、私たち強化委員会の会見にお越しいただき、ありがとうございます。

今回の東京オリンピックのマラソン・競歩を札幌で開催するということの決定を受けて、まず、ここまで皆さんに発信できていない部分があった点についてお詫び申し上げたい。また、皆さんがお聞きになりたいこともあったかと思うので、今回、このような場を設定させていただいた。

今回のマラソン競歩の札幌での開催についてだが、強化委員会としては「あってはならない決定」だと思っている。暑さとか、危険だとかの話はあったが、それを承知の上で、4年も5年も前から現場の選手、コーチ、あるいはサポートスタッフ含めて準備してきているわけだから、それがこの時期に覆るということについては、極めて遺憾であると思っている。

しかし、決まったことは覆せないという状況がある。今の状況のなかで愚痴を言っているだけでは生産性がない。また、現場の選手やコーチがどこを向いて進んで行けばいいのか、道に迷うということも考えられる。さらに、我々は、メディアの皆さんや国民の皆さんに応援していただかなければ、良い成果というものは上げられないと考える。そうしたことから、これを機として、しっかりと前を向いて来年に向かっていかなければいけないと思っている。

今回の会見において、いろいろ愚痴やぼやきというのも強化のメンバーから出ることは、ある意味当然だと思っているが、これを機に、それを前向きに変えて、やっていきたいと思っている。

 

 

瀬古利彦(日本陸連強化委員会 マラソン強化戦略プロジェクトリーダー)

マラソンが札幌に行くということになったが、私の頭の中では、もう3年前から「東京でやるんだ」ということが刷り込まれている。急に札幌に行けと言われても、なかなか頭の中が切り替えられない。

私の頭の中では、55年前の(1964年東京オリンピックにおいて)、満員の国立競技場で、円谷(幸吉)先輩が銅メダルを取ったように、今度のオリンピックで、もう1回、メダルを取りたいという思いでずっとやってきた。その思いは、急に札幌と言われてもなかなか切り替えられるものではない。

ただ、もう決まった以上は、愚痴を言っても仕方がないと思う。もっと早くいろいろな意見を言いたいとは思ったが、やはりIOC(国際オリンピック委員会)という力の前には、我々はどうにもできない。もし、「東京でやらなきゃ困ります」ということを押し通したら、「もうマラソンはオリンピックでやらなくていい」と言われるのではないかという思いがあった。

先日、服部勇馬くん(男子マラソン日本代表内定者、トヨタ自動車)と仕事で会い、彼が、「瀬古さんのようにモスクワオリンピックでボイコットになるわけではないので、僕らは幸せです。まだ札幌という地でマラソンができるということは、本当に瀬古さんたちと違って、僕は幸せだ」と言っていた。それを聞いて僕は涙が出た。本当にそうだと思う。

できれば東京で、と思っていたし、もう我々のなす術もなくこういうことになってしまったが、決まった以上は、これから強化一丸となって、札幌でメダルを取れるように、優勝できるように、そういうチームづくりをみんなで、“ワンチーム”でやっていきたいと思っている。

 

 

河野 匡(日本陸連強化委員会 長距離・マラソンディレクター)

いろいろな皆さんの、メディアの論調を見ていると、本当に誰も望んでいない意見が「合意なき決定」をされた。我々にとっては理解不能な移転だと、私は受け止めている。プロセスがよくわからないこと、理由が明確でないこと、この2点について、現場に対してどう説明したらいいのかというのが、未だに私自身、言葉が見つからない。

なぜ、マラソンと競歩が、この2種目だけが移転しなければならないのか。オリンピックのなかのたくさんのほかの競技、例えば、テニスであったり、ビーチバレーであったり、トライアスロンであったりと、競技時間が長い競技はたくさんあるなかで、マラソンと競歩だけが「守ってあげる」というような論調で移転するという。本当にそれを守れるのかということに対して、疑問しか浮かばないのが現実である。

10月初めのドーハ(世界選手権)の会場にも私はいた。すべてのロードレースでスタートからゴールまでほぼいた。でも、選手はなんの不満も言わず一所懸命に競技をやっていた。途中でやめた選手も、それから完走した選手、完歩した選手も、みんな本当に懸命に、決められたなかで最高のパフォーマンスを出していたと思う。

我々は、守られるべき立場で競技をやっているわけではない。決められたルールのなかで懸命に努力し、また超人的な才能、労力を発揮して戦うのが、我々に与えられた使命だと思っているし、それをやってきたのが過去のオリンピックであったと認識している。

なかなか行けないような旅行、チケットもなかなか手に入らない、そんな旅行を計画されて、最終的に行き場所が変わったと言われたら、なだめて、駄々をこねる子どもたちに「こっちに行くんだよ」という言葉が見つからない、そんな心境である。

選手たちは健気にも、先ほど瀬古さんも述べたように「モスクワのボイコットに比べたら…」と(いう意識でいる)。私も本当にそれしか(気持ちを)切り替える(うえでの比較)材料がないという気持ちである。「オリンピックができるんだから」という気持ちで臨んでいきたい。

「オリンピックというのは、誰のためにあるのかということを改めて感じさせられた」というのが、今回の一連の騒動であった。私はこのことについては、たぶん死ぬまで心から消え去ることはないと思っている。

 

 

山下佐知子(日本陸連強化委員会 女子マラソンオリンピック強化コーチ)

こういうところで前向きな言葉を述べることができたらすごくいいのだと思うが、まだ、開催日、時間、それからコースも決まっていない状況下で、なかなか前向きなコメントをするのは難しい。やはりどうしても無念な思いのほうが出てきてしまう。

オリンピックというのが「平和の祭典」とか、「参加することに意義がある」ということであれば、私は札幌に変わったということも受け入れていいと思うのだが、先ほどが河野ディレクターも仰っていたように、勝負するとか戦うとか、アスリートとかいう、そういう視点から申し上げると、「過酷な状況でも決まったことにどう挑むか」、そういうところでどう準備していくのがアスリートだと思っている。

私は(1992年の)バルセロナオリンピックに出場した経験があり、ラストの4kmは上り坂という、とても過酷なコースだったが、そういうものに対して、練習して、準備して、そこに臨むということに喜びもあった。また、(1991年に)東京で行われた世界陸上も、オリンピックではなかったが、暑い中で国立競技場スタート・ゴールとするコースを走った。そこに向けて準備するのは非常に身体への負担はあるけれど、「そこに向けて準備するのがアスリート」というところがある。今回、「健康のために」という理由で開催地が変更になったという経緯があるが、そこについては“なんのためのオリンピックか”というところで遡ると、いろいろな意見があるなかで、私は強化に携わっている立場なので、今、申し上げたようなことが非常に思いとしてある。

(女子マラソン日本代表に内定済みの)前田穂南さん(天満屋)は非常に暑さに強い選手であるし、MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で出したペースというのは非常に素晴らしいものであった。できるならば、東京オリンピックではMGCを上回るタイム設定で走ってほしかったなという思いもある。また、(同じく女子マラソン日本代表に内定済みの)鈴木亜由子さん(日本郵政グループ)も、国立競技場をスタート・ゴールで走りたかったということをコメントとして出している。そういう本当の意を遂げさせてあげたかったなと思う。

後ろ向きな発言ばかりになったが、こういう場がなかったので、どうしても口をついてしまったことをお許しいただきたい。また、そのうち、前向きなコメントも出させていただけると思っている。

 

 

今村文男(日本陸連強化委員会 男女競歩オリンピック強化コーチ)

私たちも、瀬古リーダー、河野ディレクターと同様の思いでいる。特に、先に行われたドーハの世界陸上においては、競歩種目では来年の東京オリンピックの選考会と位置づけ、メダルを獲得した選手を代表に内定するということで、現在2名の選手がドーハの世界陸上を通して選考されている。これも来年の東京オリンピックの気象条件、そして、選手たちの記録等々を考慮したなかで、世界の最高峰の陸上競技の選手権とういことで、世界陸上を選考会に入れたわけだが、そういった流れのなかで、ここで札幌に移転したということは、おそらく選手たちも、かけられたはしごが突然なくなってしまって、これからどういう環境で、どういう時期にやるのか、全く定まっていない思いがあると思う。

そういった意味では、これから私たちも選手とともに、来年のオリンピックに向けて準備していくなかで、暑さの対策といわれても、具体的にどの程度の対策が必要なのか考えなければならない。また、競歩の場合は、競技ルールの関係でコースは直線1kmと定められているので、マラソンのようなコースのレイアウトがすごく影響するような状況ではないが、(変更前の)東京開催での実施場所については、非常に日差しの強さが懸念されていた。そういった意味では、まだ現在決まっていない(札幌での)コースに関しては、選手はもちろん、競技役員、さらには観戦者に配慮した日陰のコースにする、または、直射日光が少ない場所を検討していただくということも、これからやれることではないかと思っている。

2013年に東京オリンピック(の開催)が決まってから、私たちは暑さの対策や、個人のデータ構築を積み重ねてきた。そのなかで、いろいろな局面で練習したことを含めて、それらが無駄にならないようにしたい。来年の東京オリンピックの会場が札幌になっても、しっかりとそのデータ分析に基づいて強化を図りながら、これから選ばれる選手も含めて、スタートラインに立てる準備をしていかなければならない。これからまた選手たちと、合宿やミーティング等で、強化の方向性を確認しながらしっかりと準備していかなければならないと思っている。

 

 

◎質疑応答


Q1:すでに札幌移転の問題が取り沙汰された時点から、日本陸連の科学委員会のほうで、札幌のレースの日程を想定したデータの集積などを進めていると聞いているが、実際に札幌から東京に移転した場合に、どのような暑熱環境の変化が想定されるのか。また、それに対してどのような準備の変更が必要か。

河野:データについては、統計的なデータであれば、いくらでも調べることができる。しかし、コースが決まらないと、どういった対応をするのか、どういうデータが必要であるのか(もわからない)。今の段階では答えにくいというのが正直なところである。

天候については、全く読むことができない。我々としては、東京で開催された場合も、その前後の天気予報を見ながら対応しようと考えていた。決して東京が暑いだけではないということは、ここに集まっている皆さんのなかでも、去年の8月9日に台風が来て、気温が上がらなかったことをご存じの方もいると思う(※暑熱対策を目的として、大会2年前となる2018年8月9日にプロジェクト合宿を行い、各種の測定を計画していたが、台風に見舞われ大幅な変更を余儀なくされた)。

天候は常に動くものである。それに対して、暑熱対策というものは“可能性として対応しなければならない比率が高い”というなかで準備してきたこと。決して、暑さだけにターゲットを当てて今までやってきたわけではない。暑かろうが寒かろうが風が吹こうが雨が降ろうが、どういう状況においても対応できるものを用意しなければいけないというのが、我々、サポートする側の役割である。天候もその要素の1つであるということである。

(今後、やっていかなければならないことの)大前提としては、力をつけること。内定している選手についてはさらに今の力を1割でも2割でも上げることができる時期だと思っているので、まずパフォーマンスアップさせることである。そうして100%を120%にも150%にも実力アップしてくれれば本当にありがたいことだが、もう一方で、その力を「決められた日に100%出す」ということが勝負になるとも思っている。

そのための準備を、気象コンディションだけでなくて、すべてのことにおいてやっていきたいというのは、開催地が変わる前からの覚悟であった。なので、そこは変わることはない。そういったなかで準備していきたい。


 

Q2:風間事務局長がいらっしゃっているので、お伺いしたい。今、強化の方々の無念の声を聞いて胸に響くものがあるのだが、この間、日本陸連として何かできることがあったのか、何をしてきたのか。会長は国際陸連のカウンシルメンバー(理事)でもある。何かやりようはあったのか。それとも、日本陸連の上層部としても、もうお手上げの状態だったのか。

風間:我々としては、開催を札幌にしたいというIOC会長の発言を受けて、また、組織委員会の森(喜朗)会長も言われていたように「調整委員会でこれから論議される」ということだったので、組織としては、あくまでも調整委員会の判断の結果を待って、我々としての判断・方向性を決めていきたいということだった。

その間の国際陸連との交信も、会長および事務レベルでは、適宜どのような状況であるかという確認をしていたが、国際陸連もかなり悩んでいたということで、「検討中」ということが記されていた。

 

Q3①:コースについてはまだ決まっていないということだが、マラソンは北海道マラソンのコースが有力だといわれている。このあたりについてどのように受け止めているか。

瀬古:コースについては、全く我々は知らない。ただ、東京のコース(設定)も、全く我々の関知するところではなかった。今回は、我々も無理を聞いたわけだから、コースをつくるときに現場の誰かが中に入れたらいいな、入りたいなと思っている。知らないところですべてが決められて、そして我々がそれを納得しなければいけないという状況になっている。今回くらいは、少しくらいは(配慮が)あってもいいのかなという気持ちでいる。

 

Q3②:今後、強化戦略の見直しは考えているか?

瀬古:河野くんと相談していくことになるが、まだコースも日にちも時間も何も決まっていないという状況のなかで、それをしても無駄だと思っている。ただし、今までやってきたことは無駄ではなく、当然暑熱対策も十分にやってきた。特に競歩はその成果が、今回の(ドーハ世界選手権男子50km競歩および20km競歩における)金メダル2つに出たと思っている。それらは変わらずやっていきたい。また、1人1人の力を、これからつけていかなければならないということは間違いない。

 

Q4:今回、IOCは“アスリートファースト、選手第一”ということを掲げて、札幌開催を決めたわけだが、選手への意見の聞き取りなどはなかったと受け止めている。選手、現場の意見を吸い上げるような形がなされないなかで、こういった決定がなされたことについて、アスリートファーストの観点から、どのように考えるか?

麻場:“どの視点でアスリートファーストなのか”ということだと思う。IOCの理由としては、環境条件が東京のそのときよりも札幌のほうが、気温が低いとか湿度が低いとか、そういう条件でアスリートに優しいとして“アスリートファースト”だと言ったのだと思う。私たち強化の立場からすれば、選手が毎日毎日血の滲む努力をして代表を勝ち取って、そしてサポートする周りのメンバーも4年も5年も前から準備をしてやってきた努力というものを無駄にしないというのが“アスリートファースト”であると捉えているので、そのへんの認識の違いが出ている。正直言って、IOCの言うアスリートファーストは、本当のアスリートファーストではないと私は思っている。

 

Q5:答えていただける方に伺いたい。先ほど瀬古さんから“預かり知らぬところでどんどん進んでいる”という話もあったが、日程についても、国際陸連のほうから7月下旬か、(8月)7~9日に(開催を)まとめて…というような問い合わせ(※国際陸連は、開催地の変更を前提として、これに伴いマラソン・競歩の会期について、1)8月7日に男女20km競歩、8月8日に男子50km競歩、8月9日に男女マラソンを実施する、2)男女マラソン、男子50km競歩、男女20km競歩の計5種目を7月27~29日あるいは7月28~30日の3日間で実施する、の2案のどちらがよいかというアンケートを、加盟する各国・地域の連盟に実施した。日本陸連には10月31日を期限として、10月30日深夜にEメールで届いている)が入っていたと思う。10月31日の段階では日本陸連としては答えていないと聞いていたが、その後、なんらかのアクションは行ったのか。また、その日程案についての受け止め(マラソン、20km競歩を男女同日開催する提示)について、どう考えているか。

麻場:まず、その手続きについて、事務局長から説明させていただき、その上で、瀬古リーダーや河野ディレクターから回答するようにしたい。

風間:国際陸連からの、いわゆるアンケートというか、期日に関する問い合わせについては、日本陸連のなかで、もちろん強化の方たちとも意見交換をした。200カ国以上の加盟国にすべて出しているアンケートであったが、日本陸連の場合は、ホスト国としての競技運営の部分もあるというなかで、運営体制であるとか、(質問で出たように)男女マラソン、男女20km競歩を1日のうちにやってしまおうという内容であったので、(この点を問い合わせたが)そこの運営の詳細が全く検討されていないという国際陸連からの返事に対して、我々はそのレベルの返事では、(アンケートに)回答できないということでその旨の回答をした。その後、国際陸連からのアンケートの結果等々については、まだ何も連絡を受けていない。我々としても、早く決定を待って、強化委員会と一緒に努力していきたいと思っている。

麻場:あと、コースについては、今後は?

風間:札幌のコースについても、国際陸連と組織委員会が検討している。もちろん瀬古リーダーが言われるように、日本の陸連の強化委員会および選手等々の声を反映していただく…これは世界の選手のためにも(なることなので)、選手目線での見知を決定の際の参考にしていただけるよう、組織委員会とも連携して、その声を届かせるように努力していきたい。

瀬古:マラソンは“オリンピックの華”と言われている。過去の男子マラソンの日程は、だいたいは最終日であったと思う。できれば最終日にやっていただいて、閉会式で表彰式をやるのが私としては望ましいと思っている。こればかりは、またIOCや国際陸連が決めることになろうかと思うが、私の希望としては、そうしていただきたいと考える。

河野:日程については、本当に決めにくいだろうなと推察する。東京でトラック&フィールド種目が行われているなかで、私はマラソン・長距離ディレクターという役職だが、特に女子マラソンのときは(もし東京開催と同じ日程のままで行われるとなった場合は、長距離レースもトラックで行われているため)、長距離ディレクターの職を誰かに委ねるべきなのか、マラソンディレクターを誰かに委ねるべきなのかというふうに正直、戸惑っている。実際に、ドーハの世界陸上でも、午前中から夕方にかけてトラックを見て、夜中は(ロード種目の)現場に行くという生活だった。そういった意味でどうなるんだろうなと、逆に私自身の身体が心配である。

今村:競歩の男女20kmに関しては、(競技にかかる時間がそれぞれ)だいたい1時間20~30分なので、おそらく女子マラソンの競技時間くらいで(男女両種目を)実施できる。今、検討されている早朝の時間帯で、札幌という開催地を考えると、十分に(男女)同日ということでも対応できると思う。配慮があれば、(どちらかを)夕方の時間にするとか、そういった時間のタイミングを考えていただければと思う。

 

Q6:まだコースが決まっておらず、時間的にも限られてはいると思うが、MGCのようなテストイベントになるような大会の開催は現実的に可能なのか? あるいは組織委員会にテストイベントを求める考えはあるか?

河野:MGCをつくったときは、テストイベントとしてのレースと選考レースとが成り立つという両輪で進めていった経緯がある。我々としては選考レースが終わっている以上は、テストイベントをやるかやらないかは我々のもの(範疇)ではないのではないか。組織委員会が運営上必要でとするのであれば、どんな形になるかはわからないが何かやるのではないか。我々から言えるのはそこまでだと思う。

 

Q7:麻場委員長に伺いたい。先ほど「あってはならない決定だと思う」と仰っていたが、具体的にどういった部分が不満に感じたのか? 急に決定したという印象があったが、あまりにもいきなり決定して、何も議論する場もなく札幌と決まった部分が不満に思ったのか、ほかに納得できない部分があるということなのか?

麻場:基本的に、私たちは、選手・現場をサポートする立場にある。選手が、現場が、ここまでどういうプロセスを歩んできたかがベースになる。先ほど河野ディレクターは旅行にたとえていたが、山登りでいえば、エベレストを目指すとなった場合、ルートの問題や装具の問題など、いろいろなことを準備して、何年も前から準備していくわけで、それが9カ月前にいきなり「違う山に(登れ)」と言われるようなもの。それはアスリートにとって、どういう意味があるのかと考えると、「あってはならない」という表現になった。プロセスでもっと議論があるべきといったことももちろんあるが、一番大きい、柱になっているのは、やはりオリンピックという場は、アスリートが努力して積み上げてきたもの、それを試す場なのではないかということ。そう考えたときに、出てきた言葉である。

 

Q8①:瀬古リーダーと山下コーチにお聞きしたい。今回、MGCは本番とほぼ同じコースを走ることで、日本選手にとってはアドバンテージになっていたと思う。それがなくなったと同然の形になったわけだが、それをどう受け止めているか?

瀬古:もう、東京(開催)はないわけで、東京のことを言っても何もプラスにはならない。気持ちはもう早く札幌のコースを決めていただきたいということだけである。ただ、やってきたことは無駄にしたくないという気持ちはある。そこは今までやってきたことをやっていきたい。僕は、気持ちはもう切り替えられたので、前向きな話をしたい。

山下:マラソンランナーがレースを走るとき、コース下見や試走はよくするが、だいたいはジョギングレベル(のスピード)ですることが多い。今回(のMGCで)、レースペースで、真剣勝負のなかでオリンピック本番のコースを走ったということは、本当にアドバンテージになると思っていた。気象条件が変わればまたラップも変わってはくるが、レースさながらに走るということは、ジョギングでコース試走をするのとは全く違うので、そこで出たラップは本番でも想定できる。東京オリンピック本番であればこれくらいのラップで刻めるのではないかというような方法が使えなくなったことは、非常に痛いなと思っている。

 

Q8②:瀬古さんの考える“アスリートファースト”とはどんなものか?

瀬古:決められたことを急に変えちゃいけないということだと思う。決められたことを急に変えることはアスリートファーストではないと僕は思う。いくら暑いといっていても、野口(みずき)さんが勝った(2004年)アテネオリンピックのときは、34~35℃あったという話(※2004年8月22日:スタートした18時の気象状況は、天候晴れ、気温35℃、湿度31%であった)だから暑いところはいくらでもあったはず。なので、「本当のところ、なんで変わったか」というところを、僕らは本当は聞きたい。我々も真剣にやってきたわけだから。なんで変わったのか、本当のところを知りたい。

 

Q9:回答はどなたでもかまわない。冒頭で瀬古リーダーは「早い段階で言ったところで、IOCに伝わるかどうか…」といったことを仰っていたが、そこまで不満を仰るのであれば、陸連としてもっと早く伝えることができたのではないか。このなかにいらしている方でも、SNSでそういう発信をされている方がいた。なぜ改めて、今日このタイミング(での会見)なのか、事前には何も言ってこなかったのか。あと、専務・会長ではなく強化委員会として陸連の発信とする形になった理由を教えていただきたい。

麻場:その点については、強化委員長からコメントさせていただく。まず、今日の会見というのは、強化委員会の会見ということでご理解いただきたい。強化委員会がなぜここまで何も言わなかったのか、いわゆる公式のコメントを出してこなかったのかというのは、やはり組織であるので、陸連のスタンスというのがきちんと決まらない限り、強化委員会が暴走するというのはあってはならないという考えがあった。SNSについても、私は強化委員長として、強化委員あるいは選手の皆さんにコメントするなとか、こういうコメントをしろとか、こういうコメントはダメだとかということを言ったことは一度もない。ということは、現場の選手たちも含めて、動向を見守りながら、あるいは場合によっては不安を持ちながらも、やはり自分たちの立場を考えて、そういう発言をすることを控えてくれていたのではないかと思う。

先ほど服部選手の話もあったが、現場の選手は純粋に、健気に、オリンピックに向かっている。そういうこともあって、11月1日に会長のコメントが発表されたので、それが陸連の公式のコメントであると我々(強化委員会)は受け止め、なるべく早いこのタイミングで、強化委員会としての考えや、これから札幌に向かっていくビジョンであるとか、まだプランまではいかないけれど、そういったものを皆さんにお示ししたいと考えた。そういういきさつであったと捉えていただければと思う。

 

Q10①:冒頭で瀬古さんが「マラソンなんてやらなくてもいいと、IOCに言われてしまうかもしれないということを考えた」と仰ったが、実際に何かそういうプレッシャーを感じる場面があったのか。

瀬古:IOCの理事会の決定は絶対だと、覆せないという話を聞いたとき、もし、我々が何か言ったことを彼らが悪意に解釈したら、「我々は選手のために涼しいところでやれと言っているのに、それでも東京(開催)を通すのか」ということになって、「じゃあ、もうマラソンはやめよう」ということになってしまうのかなという、そういう恐れを持って、これは我慢したほうがいいかなと思った。私も、風間さんともいっぱい(意見を)キャッチボールした。だけど、ここはちょっと抑えようということで、中(陸連内部)ではやっていたけれど、外に発信するのはやめようということにした。

 

Q10②:風間局長にお聞きしたい。横川会長は国際陸連の理事。先ほど「適宜連絡をとっていた」という説明だったが、理事として適宜連絡をとるというのはずいぶん距離がある感じを受ける。適宜というのは、具体的にどういうことの連絡をとっていたのか。現場の瀬古さんや河野さんが声を上げないということと、横川さんの立場とはまたちょっと違うと思うのだが、どういう抗議なりどういう説明を求めて、何をやりとりしたのか。実際に横川さんが、(開催地変更を)知ったのはいつだったのか?

風間:横川会長から聞いているのは、この札幌に開催場所を変更したいというIOC会長の意向を知ったのは、我々と同じ時期だった。会長は、その後、ホスト国の会長として、国際陸連に連絡をとっている。そればかりではなく、各レベル…我々事務局のほうでもそうだが、実際にどのようなことを国際陸連が考えているのかという問い合わせはしている。その(具体的な)期日等々は今ここですぐに出せるわけではないが、そういう活動はしていた。横川会長は国際陸連のカウンシル(理事)なので、そういう立場で、国際陸連の悩みというのも考えながらの活動だったかと思う。

 

Q11:先ほどコースに関して、強化委員会の声を反映してもらえるようであってほしいという声があったが、現時点で、例えば長い直線は困るとか、何か考えはあるか?

河野:コースに対して、我々がどこまでサジェッションを加えることができるのかわからないなかで、どのコースがいいというのは言いにくい。しかし、現実的にMGCをつくるうえでかかった年数や労力を考えると、簡単に…いわゆる北海道マラソンのコースで、できるのかなというのはある。これは私の個人的な印象で、またいくつかのところ(メディア)でも書かれているが、最近の国際陸連のトレンド、流れを考えると、周回(コース)でやる可能性は高いのではないかという予想はしている。ただし、それはコースをつくる側の構想もあると思うし、私はできたものに対応するしかないわけだが、マラソンを今までやってきた印象からすると、この残された期間と、今日にも雪が降るかというような札幌の気候のなかでのコース設定を考えると、従来あったフルマラソンのコースをオリンピック仕様として使うのはなかなか難しい部分があるのではないかという印象を持っている。

 

 

※本内容は、11月5日に実施された記者会見における発言、および質疑応答をまとめたものです。より正確に伝わることを目的として、補足説明、口語表現の削除等を含め、一部編集を加えてあります。

 

構成・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)