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2018年度日本陸連強化委員会目標方針説明Vol.1

2018.04.14
日本陸連強化委員会は4月6日、メディアに向けた2018年度の強化体制および目標方針等の説明会を、味の素ナショナルトレーニングセンターにおいて行いました。

説明会には、麻場一徳強化委員長、山崎一彦T&Fディレクター、河野匡長距離・マラソンディレクターのほか、各種目のオリンピック強化コーチ10名が登壇。まず、麻場委員長から全体に関する説明が行われたあと、山崎ディレクターがトラック&フィールド種目について、また、河野ディレクターが長距離・マラソン種目について、それぞれ方針を述べ、その後、各種目のオリンピック強化コーチが、昨年度の経過および現状の報告、2018年度の目標等を発表しました。以下、説明内容の要旨をご紹介します。

【2018年度の強化体制および強化の方向性について】 




麻場一徳強化委員長
平昌オリンピックを見ていて、強化はきちんとした裏づけを持ってやっていかなければならないこと、世の中の多くの方々に応援していただけるような取り組みをしていかなければならないことを改めて感じた。そういう意味で、こうやってメディアの皆さんと情報を共有しながら2020年東京オリンピックに向かっていくことは非常に大切だと感じている。
今回は、全体の話を私からさせていただき、具体的な方針について山崎ディレクター、河野ディレクターおよび各オリンピック強化コーチからしていただく。
資料として強化委員会の委員一覧を配布したが、2018年度はこのメンバーで取り組んでいく。

各種目をゴールドターゲット、メダルターゲット、TOP8ターゲット、ワールドチャレンジのカテゴリーに分け、種目ごとに進めることはこれまでと同様だが、体制として変わったのは、トラック&フィールドのディレクターをすべて山崎氏が務めることになった点と、これまで「情報戦略」としていた部門を「強化・情報戦略」とした点の2つ。「強化・情報戦略」については、私・麻場がリーダーを務め、以下、山崎氏(T&F)、河野氏(長距離・マラソン)、今村文男氏(競歩)、青木和浩氏(メディア戦略)、安井年文氏(競技会戦略)、金子公宏氏(IAAFワールドランキング制度戦略)、苅部俊二氏(リレー戦略)までをコアメンバーとして、ほかの担当の方々と連携しながら、あとで述べるIAAFワールドランキング制度等について、どういう対策をとりながら強化に取り組んでいくかを議論したうえで、現場の強化活動の展開に生かしていく。

東京オリンピックを2年後に控え、今シーズンはアジア大会が最も重要視すべき国際大会となる。このアジア大会を、2年後に向けての大きなステップにできるような活動をしていきたい。
同時に、IAAFワールドランキング制度がスタートするので、それに対してどういう取り組みや対策がとれるかも練っていきたいと考えている。この制度は、来年(2019年)のドーハ世界選手権、そして、2020年東京オリンピックで採用される。これらの選手選考のシステムにスムーズに反映できるよう、今年の取り組みとして重要視していきたい。

【トラック&フィールド種目の強化方針】




山崎一彦T&Fディレクター
昨年度から少し管轄が変わった。トラック&フィールド全体を見通してやっていきたい。より一貫して強化していける体制が整ったと思っている。

今年度の強化では、「IAAFワールドランキング制度」と「強化・情報戦略」、これに加えて「アジア大会」がキーワードになってくる。
IAAFワールドランキング制度については、すでに国際陸連(IAAF)のオフィシャルサイト等にも出ており、制度の骨子についてはご存じだと思うので、それを前提で話を進めさせていただくが、2020年東京オリンピックに向けたなかで考えると、このIAAFワールドランキング制度と強化・情報戦略が結びついてくる。IAAFワールドランキング制度が導入されることにより、これまでのように参加標準記録を1回突破しただけで世界選手権やオリンピックに出られるということがなくなる。新制度に対応するためには、よりポイントをうまく獲得していく必要があり、そのための戦略を考えていく必要がある。
その時間軸としては、もちろんアジア大会が重要となる。特に、「アジアエリア」というのは、今後、IAAFワールドランキング制度で重要になってくる可能性があり、より「アジアできちんと戦える」ということが多くポイントを取るという意味で、重要になってくると考えられる。今までのようにアジア大会を回避したいとか、(出場に)選択の余地があるとかいうようなことはいえなくなる。ドーハ世界選手権出場権獲得に向けたワールドランキングの有効期限は9月上旬から始まるため、アジア大会自体はIAAFワールドランキングに反映されないが、アジア大会をベストメンバーで臨むということは、この戦略のなかで大いに予測できる。

また、並行して、ドーハ世界選手権に向けたワールドランキングの有効期限が始まる前に、どういう戦略をとっていくか検討を進めなければならない。1つは、我々が今まであまり見ていなかった競技会に目を向けていくこと。例えば、我々がこれまで視野に入れていたダイヤモンドリーグなどは参加してポイントを加算できる選手はひと握りであることを考えると、実際にどこでポイントを獲得するかというと、アジア諸国できちんと戦うことも課題となってくる。アジア大会やアジア選手権などの大きな大会だけでなく、アジアで行われているどの大会に出ていくべきか、そこで成績を出せるかどうか。このほか、室内大会についての検討も必要となろう。現在、日本ではU20を対象とした競技会が1つ実施されているだけの状況で、国内では獲得が難しいこの室内大会でのポイントをどう取っていくか。また、ポイント獲得のためにはヨーロッパでの大会が整備されているので、そこできちんと結果を出せるかどうか。あるいは、日本の環境のいいところで高いポイントとなるような記録を出す、という選択肢もある。こうした4つの選択肢を、今年のアジア大会までにきちんと見極めていかなければならない。

ドーハ世界選手権、東京オリンピックに向けて、今年は、さまざまなトライアルをしなければいけない年となる。ポイントを取るには、いろいろな方法がある。ただ海外に行けば取れるかというものではなく、日本できちんと記録を出すのか、それとも海外に行ってポイントをとるのかといった見極めを、選手自身がきちんとやっていかなければならない。得意不得意の見極め、慣れているかどうか、あるいは残された期間のなかで慣れていけるかどうかといった判断を、今年のうちにやらなければならない。
この点は、すでに選手・指導者にも、よりアグレッシブに展開していくことを伝えている。ここが一番のポイントになってくると思うので、アジア大会と東京オリンピックを見据えた戦略を見定めていく年として、さまざまなトライアルをしていきたいと考えている。

【長距離・マラソンの強化方針】



河野匡長距離・マラソンディレクター
私の担当する管轄は従来通りだが、東京オリンピックに向けて2018年は、最も大事な1年と位置づけて取り組んでいきたいと思っている。

まず、2017年8月からマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)シリーズを開催したが、これまでを振り返ってみると、男子12名、女子6名の有資格者(2018年4月6日時点)を出すことができた。この選考方法に関してやMGCの内容については、陸上関係者や一般の方々からいろいろな意見をいただいているが、強化としては、今の日本のマラソンのレベルをもう1ランク上げていくという仕掛けの1年目として、当初の目的を達成できたのではないかと評価している。
特に、男子では日本記録を更新し、1レースで2時間10分を切る選手が6名出るという、これまでにはなかった結果も出ている。ただし、世界を見た場合には、昨年度に起きたムーブメントを継続し、2018年度で同じようなレベルアップができれば、少しは背中が見えてくるのかなと思っている。
また、女子のほうは6名と少ないイメージもあるが、もともと選手層の薄さという問題が女子にはあった。そのなかで、オリンピックや世界選手権でトラックを経験した選手が、マラソンに取り組んだ結果、マラソン歴の浅い選手が2時間23分台をマークしてくれたことは、今後の活躍に期待が持てるのではないかと思っている。

マラソンについては、今年度はMGCの有資格者を中心に、最大の強化を図りたいと考えている。合宿の実施のほか、秋以降のワールドマラソンメジャーズへの出場を希望する選手も複数いるので、まずは地力をつける選手、そして記録を向上させる選手と、それぞれに選手のサポートを行っていく。
また、一方で、今年の最重要大会であるアジア大会については、もちろんメダルを狙うが、暑熱対策として東京オリンピックを見据えたシミュレーションの大会として位置づけ、この2年間で蓄積した暑熱対策のデータを実際に活用するレースにしていきたいと思っている。また、アジア大会の結果を踏まえて、9月以降には、東京オリンピックまで見据えた強化プランを、少なくとも12月くらいまでにはつくりあげたいという考えでいる。
このほか、8月にはアジア大会の代表選手除くMGC有資格者を中心に、そのころにはおそらくオリンピックの大会コースが決まると思うので、そこを含めた準備を、暑熱対策として進める計画である。

MGCシリーズのセカンドステージについては、ワイルドカードの達成者も含めて、選手またはコーチのオリンピックにかける思いが詰まった非常に激しいレースになるのではないかと思っている。このなかで、日本のマラソン界が、いろいろな意味でさらに層の厚い1年にできればと考えている。

長距離については、昨年度から3000mに特化して強化し、5000mにつなげていくという形を展開している。詳細はオリンピック強化コーチから話があると思うが、男子は9名の7分台が、女子は5名の8分台が出たということで、これも過去最高の数となっている。それをベースに、今年度はさらに、いわゆる記録だけでなく、勝負のときに仕掛けられる、あるいはペースを自由に操れるようなレース展開にもっていけるようにし、アジア大会において戦える目処をつけていくことを考えている。
先般の世界ハーフマラソン選手権で、バーレーンの選手が国籍変更により、ケニア・エチオピア連合軍のような形になっており、アジア大会は、我々が考えていた以上に厳しい戦いになると感じた。国籍変更に関しては、オリンピックに向けて国際陸連もルールを固めつつあることから、駆け込みという形で国籍を変えている選手が出ている。中東諸国がそれに対応していると思われるので、アジア大会を戦う前には、きっちりと各選手の分析を行い、準備をしていきたいと思っている。

また、マラソンの今後の仕掛けとして、特にメディアの皆さんと、マラソンを含めた勉強会といったものを、我々からお声がけして定期的に開催していけたらと思っている。東京オリンピックに向けて、マラソンの持つ深みや中身というものを、我々からしっかりと伝えていくことによって、戦う選手たちのことをよく理解していただけたらと考えている。そういったところも含めて、MGCからもう一歩進んだ戦い方をしていきたい。

>>2018年度日本陸連強化委員会目標方針説明Vol.2

(取材・構成:児玉育美/JAAFメディアチーム)

※本稿は、4月6日に行われたメディアに向けた2018年度強化目標方針説明で、強化委員長はじめ、各担当者が話した内容をまとめたものです。より正確に伝わることを目的として、説明内容の順番を変える、補足説明を加える等の編集を行っています。